矢野さん
 左薬指に付けた指輪を嬉しそうに、いろんな角度で矢野は眺めている。


「ありがとう……。後から指輪返せって言っても返さないからね?私も返品利かないからね?」


 少し困った様に矢野が言うと、思わずクスっと笑ってしまった。


「そんな事しないよ」


「私と結婚して後悔しても知らないよ?」


「へー。矢野さんと結婚すると後悔するんだ?どんな後悔するんだろう。楽しみだなー」


 笑いながら言うと、矢野も困った様に笑った。


 テーブルに置かれた矢野の手にゆっくり自分の手を重ねる。


「後悔なんてしない。何もせず矢野さんを手離す方がずっとずっと後悔する。君と一緒に生きていきたい……そして互いに成長して行けたらいい……。二人で幸せになろう」


 重ねた手に少し力を込めると、瞳にまた涙を浮かべながら矢野は「うん」と頷いた。
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