矢野さん
 そんな事を思いながら、一口食べたマドレーヌを見つめていると視界に缶コーヒーが入った。

 顔をあげると矢野が缶コーヒーを俺に差し出したまま「どうぞ」と微笑む。

「あ、ありがとう。お金――」

 そう言うと、矢野は「奢りです」と笑ってコーヒーを俺に渡すと、再び一人分のスペースを開け並んで座った。

 うーん……。わざわざ俺の分まで買って来てくれたのか……。気が利くんだな。

 食べかけのマドレーヌを食べ終え、コーヒーも飲み終えると再び矢野と並んで歩きだした。

 矢野が昼食代を賭けてゲームしませんか?と提案して来たので、それに乗るとゲームセンターで色んなゲームを対決させられた。

 矢野は気合いが入りすぎて見事に全敗。

 チーン……と沈んだ矢野を見て愉快で仕方ない。

「俺と勝負しようなんて10万年早い」

 撃沈している矢野にニヤッと笑って言うと、矢野はムッとした顔をした。

「怪我してる相手に本気なんてなれませんよ。手を抜いてあげたんです。わ·ざ·と」

 フフンと鼻で笑う矢野。

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