矢野さん
 映画が終わると立ち上がり笑いながら矢野が「面白かったですね」と話しかけてきた。

「ああ。案外よかったね」

「はい」

 笑顔で頷く矢野を見て何故かホッとした。

 楽しかったみたいでよかった――。

 会場を出た所で煙草を吸いに喫煙所に向かう。

 矢野には近くのベンチに座って待っててと伝えると、「わかりました」と頷いた。

 煙草を吸い終わると矢野を待たせているベンチへ向かった。

 だが、矢野の姿がない――。

 あれ?

 辺りを探すと、少し離れた所で矢野は知らない男と話をしていた。

 その男は茶髪の髪に、俺と負けず劣らず端正な顔立ちをしている。

 矢野の知り合いか?

 すると矢野が俺に気づくと、その視線を辿って男も俺に顔を向けた。
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