矢野さん
「……んじゃ、行こっか」

 俯く矢野にそう言うと、歩き出した。

「え?あの」

「なに?」

 歩みを止め矢野を振り返る。

 矢野は戸惑った顔をして俺を見ている。

「行くってどこに……?」

「どこって、帰るんでしょ?送っていくから早く来なよ」

 そう言うと、再び矢野の自宅の方向へ歩きだした。

「あ、待って下さい」

 慌てる矢野の声が後ろから聞こえると、小走りで近づいてくる足音。

 矢野は追い付くと俺と並んで歩きだした。

 そしてボソッと「ありがとうございます」とお礼を言ってきた。

 面倒だがやっぱり矢野も女だからな……。

 さっきみたいに絡まれるのも危ないし……。

< 98 / 419 >

この作品をシェア

pagetop