電車物語‐名古屋行き‐

彼の場合



「すみません、この切符今日使えますか?」

黒いスーツにビジネスバッグ、大きめの荷物を持った男性


「空いている座席がありましたらご案内できますが…
少々お待ちください」


彼が東京駅の駅員に差し出したのは
10月22日の名古屋行き
3日後の新幹線の切符である

男性は疲れているのか、


「はぁ…」


「ふぅ…」


「はぁ…」


と、駅員がぱちぱちと液晶画面に何かを打っている間に
少なくとも3回、大きくため息をついた

彼が4度目のため息をつく頃に駅員が

「…21時15分発車の名古屋行きに乗れます」

と、言葉を発した


駅員室の壁に掛かっている時計を見ると

既に20時55分を過ぎている

しかし彼は駅員から切符を受け取ると急ぐ様子もなく、
ゆっくりとホームへの階段へ向かった

そして

「宏香…美優……」

周りの音にかき消されてしまうほどの
小さな声でそう呟くと、彼、隆也は階段を上っていった

現在21時00分
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