雨風ささやく丘で
天気は秋の心地よい晴れ。空気の匂いさえ違う。
私は一度深呼吸をして仕事、そして時間からの開放感を味わった。

町はいつも通り人で溢れかえっているが、自分の休日の日は何故か一人でいることを感じる。家族をみな県外へ置いてきてからずっと変わらない。
あの会社を出たら実家へ帰るか、近い田舎町へでも引っ越ししよう。
まだ23歳だし、もう一度ゼロからやり直すだけのエネルギーはある。

そう色々と考え事をしながら行き当たりバッタリでたどり着いたのは大好きな本屋だった。
入る前に一応携帯を確認するとメールのランプが点いていた。携帯を開いて見てみると雄人からの返事だった。

From:Ituki Yuuto
To:Isaki Natuki
  
  連絡もしないでそんなことするか。
  合鍵は預かったままだけど。
End

雄人が嘘でもついていないのならば、昨日の黒いモヤは一体何だったのだろうと改めて不安が蘇った。私は雄人の悪戯だったとういうことを信じていたい。

From:Isaki Natuki
To:Ituki Yuuto

  …ほんとに?

End

更に数分待ってみた。確信を得るまで安心はできない。するとすぐに返信がまた来た。

From:Ituki Yuuto
To:Isaki Natuki

  ほんとだよ。
  そもそも昨日俺は仕事の出張でそことは真反対のところへ行ってたから。
  
  どうしたの?

End

本当に雄人ではなかったようだ。
期待外れの答えに確信が無効にされた今、自分の中に不安が根付こうとしていた。
私がただ神経質になり過ぎているだけだろうか…
とりあえず鍵だけは返すようにとメールを返した。

From:Isaki Natuki
To:Ituki Yuuto
  
  何でもない。
  とりあえず合鍵返してくれないかな?(。-人-。)

End

From:Ituki Yuuto
To:Isaki Natuki
 
  もちろん返すのはいいけど…
  そんなに俺のこと信用出来ないの?夏希は。

End

その一言はさり気なく私の胸に鋭い刺のように刺さった。
浮気の件で疑いが晴れないまま別れてからもなお、私はまだ信用出来ずに疑い続けている。という言動として雄人は今のやり取りを受け止めたようだ。

From:Isaki natuki
To:Ituki Yuuto

  違うの。
  返して欲しいだけ(笑)

End
From:Ituki Yuuto
To:Isaki Natuki

  分かった。
  でも今すぐは行けない。今週の日曜日に行く。

End

欲しかった回答をもらうと私は毎回同様に、それ以上返事をしなかった。そして携帯をカバンにしまい本屋に入った。
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