大好きだから
 横を向くと濃紺のジャケットを見事に着こなした怜央だった。

「れ……」

 怜央と言いかけてやめる。

 ここは職場。怜央と知り合いだと思われてはいけない。

「ここのスタッフさんですか? 僕のところにも飲み物をお願いします」

 怜央がにっこり笑う。極上の王子様スマイルだ。

「は――」
「わたしがお持ちします!」

三井さんがわたしの返事をさえぎり、自分が持って行くと言う。

「千秋、早くアンジュさんのところへ持って行きなさいよ」
「は、はい」

 その場にいる怜央に後ろ髪を引かれる思いを断ち切り、スタジオを出た。

 戻ると怜央も三井さんもいなかった。

 顔を見て話せるチャンスだったのにな……。
 怜央、少し痩せたみたいだった。

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