緑の風と小さな光 第1部
セレは膝を折り、女性に目線を合わせた。

「私はセレシュヤーデと申します。こちらはピアリ。」

「……」

「ノーラ様。お名前の通り本来はお元気な方なのでしょう。…ちょっとこれを見て下さい。」

床には先程のグラスの欠片《かけら》が散らばっていた。ピアリが投げ出したのだ。

セレはその上に手をかざした。欠片が浮かび上がった。

「あなたも魔法使いなの?」

ノーラは少し驚いた様に言った。

「はい。最近まである王室に仕えておりましたが、訳あって今は旅をしております。」

ますます嘘が上手くなったな、とセレは思った。

「大地の魔法です。こうやって本来動く筈のない物を動かせる魔法です。逆も然りですが。」

それを聞いてノーラはハッと気づいた様な顔になった。

「…もしかして私の足も動かせる…?」

「その通り。あなたにこの魔法が使えれば。」

「できるかしら?」

「…失礼。」

セレはノーラの手に自分の手を重ねた。

ノーラの頬がほんのり紅く染まった。

「何を…?」

「この欠片に意識を集中して。心の力で動かしてみて下さい。」

「わかりました。」
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