緑の風と小さな光 第1部
ヴァシュロークはセレが幼い頃からここによく来ていた。

セレの教育係でもあり、魔法医として病気の治療にも当たっていた。

セレがこの年齢まで生き長らえたのはヴァシュロークの力に依る所が大きかった。



離宮に到着すると、すぐにセレの寝室に通された。

先程の庭師や世話係、勉学の為の教師、料理人など、数名が集まっていた。

離宮にいる人間はこれで全てだった。

セレは静かにベッドに横たわっていた。

血の気の無い顔…

手首に触れてみるとまだ微かに脈はあった。
ヴァシュロークでなければ分からないであろう微弱な拍動…命の灯が消えようとしているのは明らかだった。

しかし、この時点で敢《あ》えてヴァシュロークはセレの臨終を告げた。

セレが完全な死を迎えると、魔法石を宿すのは難しい。この石は魂を持たぬ者には宿らないのだ。


…今のうちだ…


ヴァシュロークは急がなければならなかった。
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