緑の風と小さな光 第1部
ラドニーの父親は風車小屋に住んでいる。名をハンという。ハンとは「手」だ。

小高い丘の上、いい風に恵まれた場所にその風車小屋は建っていた。

風車の回転力で小屋の中の石臼を動かし、小麦を粉にする。

10年以上前はこんな風車小屋が20戸以上はあったが、今はここだけだ。

建てられてから凡そ50年。父から受け継いだ物だ。

この小屋には大切な思い出と誇りがある。孫のルーチェもここの粉で焼いたクッキーが大好きだ。

それにまだまだ働ける。

工場の冷たい金属の臼では、ふっくらと美味しい小麦粉なんかできる訳がない。

そう思っていた。

しかし、今やほとんどの農家はその工場に製粉をまかせている。

大量生産のおかげでやはり儲かるのだ。味も思ったほど悪くない。


おかげで風車小屋は閑散としていた。


「何とかしたいもんだがな…」

ハンはもどかしさでいっぱいだった。
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