緑の風と小さな光 第1部
ラドニーの家ではセレが腫れた頬を冷やしていた。

ラドニーの妻が冷たいジュースと焼き菓子を出してくれたが、セレはほとんど口に入れる事ができない。

ジュースは少し飲めるかもしれないが、柑橘系の酸っぱい香りがする。傷に沁みそうだ。

そのセレの目の前で、何とも美味しそうに焼き菓子を頬張るエルグ。

「これは何ていうお菓子?」

「マドレーヌよ。」

「これは美味しい!香りもいい!セレ、残念だな。」

エルグはご丁寧に手で煽って香りをセレの方に送ってくる。

セレは黙ったまま、ちらりとエルグを睨んだ。

…全くこいつは…

そんなセレに、少女が冷ましたハーブティーを持って来てくれた。

この家の娘ルーチェだ。「灯火」の意味だ。ピアリよりも少し年上に見える。

「どうぞ。これなら飲めると思うわ。」

ありがとう、と言いたいが口が思うように動かないので、少女の目を見て表情だけで挨拶をした。

「どういたしまして。」

ルーチェは笑顔で答えてくれた。

ラドニー夫妻にはこの上なく大切な一人娘だ。

「パパとお祖父《じい》ちゃんはまたケンカをしたの?」

ルーチェに訊かれてラドニーは少し困った顔になった。
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