緑の風と小さな光 第1部
この国「ロストーク」では第一王子が後継者となる決まりだった。

血族での王位継承の争いを避ける為の絶対的な掟だ。

弟を王位継承者にするには、セレの存在を隠さなくてはならない。

そういう訳で、本来なら誕生の時に盛大に祝われるべきなのだが『死産』という事にされている。

公にはセレは存在しないのだ。

だが、セレは決して疎《うと》んじられていた訳では無い。

セレの訃報を聞いた国王、王妃、そして弟王子の悲しみや落胆は気の毒な程だった。


セレは愛されていた。


…それなのに、きちんと弔《とむら》う事すらできない…

国王達の無念はどれ程のものだろう…


葬儀は密やかなものだった。

死者を心から悼む者だけの参列。

…むしろ葬儀はこうあるべきかもしれない…

セレは王太子としての正装をされていた。

とても良く似合っていて、それが悲しみを更に増した。

棺は離宮の庭園の隅にひっそりと埋葬された。

セレの弟、ヤールシュレイテは棺の蓋が閉じられるまで、セレの手を握って離さなかった。


< 20 / 287 >

この作品をシェア

pagetop