緑の風と小さな光 第1部
鼻と口から血が流れ、生きている者の顔ではなかった。

大地の魔法がローエンにまでかかってしまったのだ。

「嫌あぁっ!!」

叫ぶピアリの背後で、また幾つもの泥の塊が人型になろうとしていた。

セレはピアリを連れて逃げようと、手を握った。

「いやっ!人殺し!」

ピアリはセレの手を勢いよく振り払った。


   『人殺し』


その言葉はセレの胸に深く刺さった。

しかし、ここで動揺を見せる訳にはいかなかった。

「ここに居ては危険なんだ!」

素知らぬ振りで、強引にピアリを抱えて走り出した。

「放してよ!」

ピアリはセレから逃げようと必死にもがいた。

精一杯の力で叩いた。引っ掻いた。

セレはびくともせずに走り続けた。

彼は森に向かっていた。

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