緑の風と小さな光 第1部
ピアリはまだ「恋」というものを知らなかった。

目覚めていないのだった。

「…あなたも食べたら?」

「うん。食べてるよ。」

ピアリよりも随分少ない量だった。

…思わずパクパクと食べてしまったけど、ちょっと悪かったかな…

食事を済ませてセレは立ち上がった。

「西に行けば離宮がある筈だ。」

ピアリと一緒に歩き始めた。

「風」と「大地」の魔法が使えるセレの方向感覚は正確だ。


だが、しばらくして『おかしい』と感じた。

…西に進めない…

太陽を背にしてやや左寄りに歩いている筈なのに、いつの間にか太陽が正面にある。

…迷わされている。誰の魔法だろう?昨日の奴か…?

セレは立ち止まった。

「どうしたの?」

ピアリが不安そうにたずねた。

「どうも迷わされている様だ。さて、どうするか…」

考えていると、ふいに頭の中に声が響いた。

『風が教えてくれる。全身全霊で風を感じ取ってごらん。君ならできる。』

「ヴァッシュ様!?」

辺りを見まわした。

誰もいない。

 …全身全霊? 風を感じ取る?

良くわからないが、目を閉じて心を鎮めてみた。
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