緑の風と小さな光 第1部
それぞれが口々に「美味しい」と言った。

ただ、セレは

「この味、何処かで…」

と、呟《つぶや》いた。

「良くおわかりですね。王宮であなたに料理をお出しした事があります。」

シエナが言った。

セレは物心がつく前からこの離宮で暮らしていたが、何度か人目を忍んで王宮に行った事がある。

「誕生日だ。」

5才と18才の誕生日は、この国では特別な祝いなのだ。その時の内輪の晩餐会だ。

「ええ。あの時も同じ様なスープをお出ししたと思います。」

「魔法も使えてお料理も上手なんて素敵!」

ピアリはシエナに尊敬の眼差しを向けた。

「シエナはヤールの先生だった事もあったかな?」

セレは少しずつ思い出した。

「そうです。最初はヤール様の魔法の教師として王宮に入りました。」

…そうだ…彼女がヴァシュロークと一緒に居るのを見た事がある。

その頃はヴァシュロークも王宮によく居た。

「ヴァシュロークが『王宮の料理はあまり美味くない』と言うものだから。」

シエナの料理の腕はヴァシュロークのお墨付きだったので、時々、手伝いという形で厨房に入った。

< 61 / 287 >

この作品をシェア

pagetop