緑の風と小さな光 第1部
「ヴァシュロークに『美味しい』と言ってもらえると本当に嬉しかったわ。」

ヤールが学校に行くようになってからは、教師としての時間よりも料理に携わる時間の方が長かった。

だが、その後ヴァシュロークはセレの教師としてこの離宮にいることが多くなった。

更にフィズを造るためにローエンの小屋にも通うようになり、王宮の方にはほとんど顔を出さなくなってしまった。


そして数年後、王宮にセレの訃報《ふほう》が届いた。


「あの時、ヤール様と一緒に私もここに来たのです。そうしたら、いきなりヴァシュロークに呼び出されて…」

セレとフィズの事を聞かされた。

「驚きました。まさか、そんな事になっているとは。」

ヴァシュロークは、自分がもう長くは無い、という事も明かした。

「全身の細胞がおかしくなっているのさ。」

と彼は言った。

つまり癌《がん》だった。


「どれだけ泣いたかわからないわ。」

シエナはさらりと言った。

「…この話はもう終わりにしましょう。こんな事を話すつもりは無かったのですが…」
< 62 / 287 >

この作品をシェア

pagetop