緑の風と小さな光 第1部
楽しい時間はあっという間に過ぎる。

「…そろそろ時間だな。戻らないと朝になってしまう。」

セレが呟く様に言った。

ヤールの顔色が変わった。

「もう、会えないのですか…?」

「…ああ。」

「せめて母上に会って行かれたら?私が人祓いをしますから。」

「いや、やめておく。」

会いたいと思う。

…だが、今でさえ涙が出そうなのだ。母上に会ったらきっとこらえきれない…

やはり母親というのは特別な存在だ。

「母上はお変わりないか?」

「ええ。今でもここまで走って登って来られますよ。若い侍従たちの方がついて来られない位です。」

「そうか。」

体を動かすのが大好きで、誰にでも話しかける。そして、ちょっといたずら好きな女性だ。セレの性格は母親譲りだ。

大地の魔法を得意とする。感知能力も高かった。

「もしかしたら私がここにいる事を感付いているかもな。」

階段を駆け登って来る足音が聞こえた。

「噂をすれば…母上ですよ。」

ヤールが言った。

セレは窓枠に手をかけた。そして、振り返って言った。
< 95 / 287 >

この作品をシェア

pagetop