緑の風と小さな光 第1部
「ヤール、しっかり国を守れよ。」

「兄様!」

セレが窓から飛び出した瞬間に母が来た。

僅かに開いたドアの隙間、本当に一瞬、母の顔を見た。

半月に照らされた懐かしい顔…

お元気そうだ…

セレは屋根づたいに走り去った。

窓の下にいたタリヤと目があったが、タリヤは動かず、セレも足を止める事は無かった。

「ヤール、何かあったのですか?」

母がドアを開けて入って来た。

「母上、ノック位して下さい。いつも言っているでしょう。」

ヤールは絨毯の血の痕を隠す様にその上に立った。

「今、誰かいたわよね?誰なの?」

「私が放《はな》っておいた密偵です。誰にも知られたくなかったのですが、見つかってしまいましたね。」

…今は兄様のことは伏せておこう…

「密偵?何を探らせているのです?ノルン国の事ですか?」

「いずれ、お話します。お騒がせしてすみませんでした。」
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