つなぐ理由
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いたって平凡な顔で特別可愛いわけでもないわたしが、課長や年長の先輩から「アイドル」なんて呼ばれていることには理由がある。
『聖子』
今ではちょっと古臭く感じるこの名前が、わたしの名前だ。
青春時代に昭和を代表するトップアイドルに夢中だった父の「娘が生まれたら絶対に“聖子ちゃん”にするんだ」という独り善がりな決意によって名付けられた。
この名前は父と同世代の人たちからはやたらとウケがよく、高校のときはバイト先の社員さんに、学生時代は先生に、会社勤めになってからは上司の方々に、すぐに名前を覚えてもらえるという利点があったけれど、「聖子ちゃん」と呼ばれることは本当はすこし苦痛だった。そのうえ冗談でも「アイドル」扱いなんてされるとつらかった。
いくら『聖子ちゃん』でも、その名前の恩恵に与れることもなく、わたしはどこにでもいるような十人並みの顔だ。
平凡な容姿のくせにやたらとおじさんたちにちやほやされるのを見て、バイト仲間やクラスメイトが馬鹿にするように冷めた目を向けてくるのがいたたまれなかった。
今の職場でもわたしが入社するまで課でいちばん若かったという4歳年上の先輩が、「顔面偏差値あの程度のくせに、アイドル扱いとかウケるんだけど」と、化粧室でわたしの容姿を貶しているのを聞いたことがあった。
『聖子』だなんて名前でさえなければ、わたしみたいな地味な女は目立つこともなく、嫌われることもなかったかもしれないのに。
だから職場で『聖子ちゃん』と呼ばれることは本当に嫌だった。けれど課長がわたしをそう呼ぶから、それに倣って男性社員も女性社員もみんな『聖子ちゃん』と呼んできた。
でもただひとり、わたしのことを「戸田さん」と苗字で呼んでくれるひとがいる。
それが上杉先輩だった。
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