絶対に好きじゃナイ!

だいぶ高いところまで上ってエレベーターをおりると、長い廊下を通っていくつかのドアを抜けた。

soirはオシャレなシューズブランドなんだから当たり前なんだけど、わたしたちの前を歩く斎藤さんの革靴はぴかぴかに磨かれていてよく手入れされているんだなあと思った。


わたしが履く黒いsoirのヒールも、心なしか嬉しそうな音を立てる。


「どうぞ。夫人はこの部屋でお待ちです」


斎藤さんが立ち止まって、わたしたちを重厚な扉の前に導いた。

わたしならノックする前に確実に3回は深呼吸が必要だと思うけど、社長はなんの躊躇もなくその扉を叩いた。


「はい、どうぞ」


目の前の扉を突き抜けて、透き通った声が聞こえた。


「失礼します」

「し、失礼します……!」


扉を開けてするりと部屋の中に入った社長に続いて、わたしも胸を張って社長夫人の待つ部屋へと足を踏み入れる。


適度に広いお部屋の中には外の光がよくとりいれられて、柔らかい明るさがあった。
真ん中にある高級そうなソファから立ち上がった女性が、わたしたちを見てにっこりと優しく微笑んだ。
< 113 / 210 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop