絶対に好きじゃナイ!
「遠いところを、わざわざすみません。お疲れになりましたよね? どうぞ座ってください」
そう言って夫人が正面にあるソファに座るように促す。
社長が名刺を差し出したり軽くあいさつを交わしたり。
わたしはそもそも事務担当だから名刺なんて持ってなくて、ひたすら身体を緊張させて様子を伺っていた。
ソファに腰を下ろして正面から改めて夫人を見て、soirの社長が過保護なのもなんとなく納得してしまった。
もともとsoirという会社は老舗のシューズメーカーから独立したブランド。
そのメーカーを経営する一族の息子さんが今のsoirの社長さんなわけだから、社長とはいっても彼も相当若い。
そして目の前の社長夫人も、まるで職人さんが丹精込めてつくったお人形のように可愛らしい人だった。
まつ毛が長くて目がぱっちりしてて、黒い髪がふわふわで柔らかそう。
優しそうな瞳をしていて、もしこの人が本気で泣いたり怒ったりときどき甘えてみたりするのなら、どこかに閉じ込めて自分だけが見れるようにしちゃいたい。
ていうか、もしかしてうちの社長より年下なんじゃないの……?
「高瀬小夜といいます。今日は夫が不在なもので、すみません」
「とんでもないです。こちらこそ、昨日は大事な資料をお届けできなくて申し訳ありませんでした」