絶対に好きじゃナイ!
「そ、そうなんです。お気に入りで、ずーっと履いてるんですけど全然ダメになったりしなくて」
「ふふ、ありがとう。そのヒール、実はわたしもお気に入りなの」
なにか、特別な思い出のあるヒールなんだって教えてくれた。
そして今度はわたしをまっすぐに見つめて、優しく微笑む。
「恋をして、素直になれなかったり不安になったり。だけど、その気持ちって自分だけのものじゃなくて、ふたりの大事な気持ちだから。だから不安な気持ちごと、全部もらってもらえばいいと思うの」
にっこりと笑った夫人がふと道路に視線を流すと、ちょうど社長の車が歩道に立つわたしたちの横に滑り込んで止まった。
「そうやってがんばる女の子の背中を、ちょっとだけ押してあげられる靴をつくりたいんだって」
だからあなたもがんばってね、と。
なぜだか夫人に背中を押された。
わたしって、そんなにわかりやすい?
ちょっと頬を染めたわたしを見て社長が怪訝な顔をしてる。
だけどそんなの無視して、夫人と斎藤さんに感謝を込めてあいさつをして。
社長の運転する車は、わたしたちの事務所へと戻って行った。