絶対に好きじゃナイ!
「……わたし、要さんの連絡先なんて知らないじゃん」
それからもうひとつ、大事なこと。
携帯がない。
事務所を出るときには絶対あったし、あれから一度も触ってないからきっと忘れてきたんだ。
「あー、もう!」
バカ!わたしのバカ!
もう事務所からはだいぶ離れてしまったんだけど、さすがに携帯がないのは心許ないよ。
わたしはため息を吐き出すと、soirの黒いヒールを踏み鳴らしてつかつかと今来た道を引き返した。
soirのヒールが良いものでよかった。
安いヒールだったらきっと足もぱんぱんだよ。
心の中でボヤきながら、だいぶ暗くなった街を歩く人の波を掻き分けて行った。
事務所にはまだ電気がついていた。
紫枝さんも松丸くんもわたしより先に帰って行った。
他の人がこの時間まで残業してることは珍しいから、いるとしたら結木さんか社長かな……
そう思うと、なんだか心臓がどきどきしてくる。
こ、これって、何かアクションを起こすべきなのかな?