絶対に好きじゃナイ!
「好きに決まってるだろ!」
それはあまり聞いたことがない、焦ったような社長の声だった。
少し開いたドアの隙間から見えるのは、こちらに背を向けて電話中の社長の背中。
わたしがドアを開けたことにも気づかないくらい、電話に夢中らしい。
「特別なんだ。誰にも渡したくない」
だれ……?
一体、誰と話してるの?
わたしはドアを半分開いた変な格好のままで完全にフリーズして、だけど頭の中はぐるぐる回る。
わたしには見向きもしないで、そんなに一生懸命話しかけてるのは誰なの?
何かを堪えるように、空いてる片手で自分の髪をくしゃくしゃと乱す。
その横顔がとんでもなくかっこよく見えて、わたしの視線は釘付けなのに。
それなのに、社長はわたしに気付きもしない。
あの社長に、あんなふうに好きで堪らないって顔をさせる電話の相手。
その顔も知らない女性に対して、急激に嫉妬の炎が燃え上がったのがわかる。
それと同時に、すごく泣きたくなった。
どんなに嫉妬したって、社長がこっちを見てくれないんじゃただ虚しいだけなんだもん。