絶対に好きじゃナイ!

お願い、こっちを向いて。

わたしだけを見てーー



「……ああ、わかった。今から家に行く。会いに行くから、絶対……」

「ダメ! 行かないで!」


わたしは自分の意地っ張りが顔を出す隙間もないくらい反射的に叫んだ。

そのままオフィスに飛び込んで、驚いた社長が振り向く前にその背中にぎゅっと抱きつく。


「り、梨子? お前、だいぶ前に帰ったはずじゃ……」

「お願い、行かないで……」


ぎゅうっと腕に力を込めて、社長の背中に顔を押し付けた。

わたしはその背中に必死に縋り付いて、社長が電話の女の人のところへ行ってしまわないように一生懸命に言葉を紡ぐ。



「わたし意地っ張りだから、全然素直になれないけど。だけど、好きな人が他の女の人のところへ行っちゃうのを黙って見てるのはイヤ! 社長がその人を好きなのはわかったけど、わたしのほうがずーっと社長を好きだし、昨日は怖くて逃げちゃったけどもう勝手にいなくなったりしないから!」



だから、お願いだから。
わたしを置いていかないでーー


不安な気持ちはもちろんある。

こんなこと言って、困らせないかなとか。
同じ気持ちじゃないのに、同情から慰められることも。
きっぱりと断られることも、どっちも怖い。
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