絶対に好きじゃナイ!

「梨子嬢」


あ、ちなみにこの変な呼び方をしたのはあの頃の社長だけ。

わたしがちょっと生意気でませた女の子だったから、こんな呼び方だった。


「危ないから、ちゃんと家で大人しく留守番してるんだぞ。帰ったらまた遊ぼう」

社長の強い瞳がまっすぐに同じ目線でそう言うから、

「……わかった」

って言うしかなかったんだけど。

「はやく帰って来る?」

「ああ、すぐ帰って来てやる」

「待ってるからね」


そうは言ったけど、わたしも生意気盛りの小学3年生だったから。

全然"大人しく留守番"なんてしてなくて、こっそり社長たちの跡をつけた。
そしてあの日の社長が言ってた"タイマン"はただの乱闘に変わり、わたしが巻き込まれたり助けようとした要さんが隙をつかれたりそれを見た社長がキレたり……


とにかく、あの日は散々だった。

そしてその日、無事に家に帰り着いたあと社長に盛大に怒鳴られた。
あの人がわたしに向かって声を荒げたのは、後にも先にもそれ一回きりだった。




「だから合コンなんかで男を探してるってわけかあ」

「仕方ないじゃないですか。出会いがないんです、出会いが!」

そう言うわたしに、要さんは眼鏡の奥で曖昧に笑うだけだった。
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