絶対に好きじゃナイ!

ここはちょうど会社と社長のマンションとの中間地点。
ここからなら、会社へも社長の部屋へも行けるけど……

社長はどっちにいるのかな?

いま何時頃なんだろうと思って、腕時計を確認しようと少し俯いたとき。


わたしの影に黒い影が重なって、目の前の男の人にふわりと抱き寄せられていた。


「ちょ、ちょっと……!」

「やっぱり、梨子ちゃんってすごく華奢なんだね。だけど柔らかい……」

「やめてよ! 離して!」

「俺なら、ちゃんと梨子ちゃんのこと大事にするよ」


もう!何言ってんのこの人!


社長以外の男の人に、こんなふうに抱きしめられたのははじめてだった。
社長の声ならわたしをめろめろにしちゃうような囁きも、背筋に鳥肌を立てるばかり。


じたばたと抵抗してもなかなか離してもらえなくて、履いていたヒールでわたしを抱きしめる男のつま先を踏んづけてやったとき。


「いっ、いってぇ!!」


予想以上に大きな声と一緒に、わたしを拘束していた腕がふっと離れていった。
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