絶対に好きじゃナイ!
「松丸」
いつもより少し硬い声で、社長が松丸くんを呼びつけた。
「はっ、はい!」
「ちょっと来い」
「はい! 只今っ!」
その低い声のトーンのせいで、松丸くんは自分が何か失敗でもしたんじゃないかってびくびくしてるみたいだけど。
少し観察してればすぐにわかる。
目の前で仲良くするふたりにいよいよ抑えが効かなくなって、その気持ちを隠そうとするせいで声が硬くなりすぎてるんだって。
社長の特権で好きな女の子から他の男を引き離すなんて。
うちの社長があんなに大人気ない人だなんて、梨子ちゃんが現れるまで知らなかった。
わたしがくすくすと漏れそうになる笑いを堪えていると、事務所の電話が鳴って向かい側のデスクにいる梨子ちゃんが受話器をとった。
「お電話ありがとうございます。西城建築デザイン事務所です」
そう言った梨子ちゃんが、少し目を見開くと受話器を持ったまま困惑した顔でわたしのほうを見上げる。