絶対に好きじゃナイ!

うん、そう。びっくりした。

社長と相手の女の人が話をするところを目の当たりにして、驚いた。
社長がきっぱり断ってくれてよかったって、すごくほっとした。


だけどなんか、それだけじゃない……


あまりにもあっさり、まっすぐに。
言葉や態度で、なにかを伝えてくる社長に、胸の奥がうずうずしてくる。

意地っ張りの隙間を縫って、次々と飛び出してくる気持ち。

どうしよう、どうしよう。

どうしたら、このうずうずする気持ちは収まるの?




繋いだ手が、くすぐったくなるほどあったかい。






「……梨子?」


結局、アパートのドアの前まで黙ったままだったわたし。

鍵を開けても突っ立ったままのわたしの顔を、伺うように社長が覗き込んだ。


その薄茶色の瞳に、ただまっすぐに映り込む自分を見たとき。


わたしは何かに突き動かされるように、部屋のドアを開けて社長を玄関の中に引っ張り込んだ。
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