絶対に好きじゃナイ!
驚いて声を上げる社長の背中を壁に押し付けて、そのまま社長の胸に飛び込む。
バタンとドアが閉まる音がして、真っ暗な玄関の中でわたしはぎゅっと抱きつく腕に力を込めた。
「……梨子? あいつは確かに昔の知り合いだけど、今は本当に梨子だけだから」
オフィスでは絶対聞けないような、なんだか情けない声を出す社長。
もごもごといつかも聞いたことがあるような言い訳を続ける社長の言葉を止めるために、背伸びをして形のいいその唇に自分の唇を押し付けた。
驚いて今度こそ完全にフリーズする社長。
その胸に顔を押し付けて、もう一度抱きつく腕に力を込める。
ふたりきりの、静かな玄関先。
くっついちゃうほど近くにいる社長にだけ聞こえるような、ため息ほどの小さな声で。
「……ーー」
わたしの震える唇が、ずっと言えずにいた二文字をそっと紡ぎ出した。