絶対に好きじゃナイ!

胸がきゅんっと小さな音をたてた。


違う違う違う!

これは世の女性憧れの"壁ドン"というシチュエーションに胸きゅんしてるだけで、断じて社長にキュンキュンしてるわけじゃない!


そして目の前の社長の、この整ったお顔といったら。

楽しそうに細められた目は、仕事中は強い眼差しをたたえてとっても精悍なお顔を演出する。
まっすぐな鼻筋、形のいい唇。
すごく端正なのに男らしい。

わたしじゃなかったら、完全にノックアウトでしょうよ。


「そわそわして、小さなミスもいくつか。それは、俺のせいだろ?」


そう言ってわたしの脚の間にぐっと膝を入れて逃げられなくする。

そして耳元に唇を寄せると、オフィスでは絶対発することのない甘い声を響かせた。


「梨子」


ああ、もう!
そんなとこで名前を呼ばないで!


「意地っ張りなぶん、顔によくでるな。耳まで真っ赤だぞ」


悔しい、悔しい、悔しい!

こうやっていたずらっ子みたいな笑い方をすると、もう30歳手前なくせして男の子みたいに見える。

そのくらい、輝いて見えてしまう。
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