絶対に好きじゃナイ!

「だから言っただろうが、合コンばっかりでちゃらちゃら遊びやがって」

「な!? ちゃ、ちゃらちゃらなんてしてないです!」


だいたい、わたしのファースト・キスをたった今奪ったのは社長じゃない!

悔しくて社長の腕の中でもぞもぞと暴れても、かたく閉じ込められて全然振りほどけない。


「要だったから、俺がここに来れたんだろうが。俺の知らない別の男だったらどうするつもりだったんだ」

「そ、そんなの……」

そんなの、社長には関係ない。


そう言いたいのに、胸がきゅうっと締め付けられて何故かその言葉を発することができなかった。


「梨子」


社長に、名前を呼ばれた。

オフィスではいつも苗字で"椎名"と呼ぶ。
だから社長は、わたしとの距離を極力あけておきたいのかと思ってたの。

あの頃の記憶は、遠い昔のこと。
もう、わたしと社長はただの部下と上司なんだって。


だけど薄茶色のその瞳に見つめられて、わたしの名前を呼んだ声に身体が震えた。

視線が逸らせない。
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