絶対に好きじゃナイ!

「離してーーー! こ、こんなのセクハラです!」

「あ? セクハラだと……?」


わたしは社長の腕の中から逃げ出すと、どたばたと暴れ回る心臓をなんとか宥める。

お、落ち着けわたし!

相手はあの社長でしょ、なにぽーっとなってるのよ梨子!


「ははは、大変だな虎鉄。セクハラ上司って訴えられるなよ」

「うるせーな。元はと言えばお前がおかしな電話寄越すからこっちはすっ飛んで来るハメになったんだろーが」


もう、なんなの!

ひとりずつでも手強いのに、このふたりが揃ったらほんとに手に負えないんだから!


そして今更になってじわじわと実感が湧いてくる。

わたし、キスしちゃった。
ファースト・キスだったのに。

あの"西城虎鉄"と……
事務所の社長とキスしちゃうなんて!


こんなはずじゃなかったのに。
ファースト・キスは大好きな彼氏と、甘い雰囲気の中で、お互い見つめあってゆっくり目を閉じて、そして……

それなのに、今のキスには目を閉じる暇さえなかった!
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