絶対に好きじゃナイ!

キスをするときにそっと伏せられた黒くて長いまつ毛。

それから、微かに目を開いて薄茶色の瞳でわたしを釘付けにする。
視線が逸らせなくて息まで止まっちゃう。


ああ、次にするときにはもっと上手に息継ぎをしよう。

そしたら、きっともっとーー



って、違う!間違えた!

"次"なんてないんだった!
もう二度と社長とキスなんてしないんでしょ、わたしってば!



「……椎名さん、大丈夫? 赤くなったり青くなったりぷるぷる震えたり忙しそうだね」

「い、いえ。それほどでも……」


結木さんが変なものを見るような、うろんな眼差しを向けてくる。

だけどそんなの気づかないふり!

わたしはもう一度目の前の資料に意識を集中させて、頭の真ん中に居座ろうとする社長をなんとか隅に押しのけた。




あの日、社長とはじめてキスをしてしまってから。

まるで心の奥底にひっそりと閉じ込めてあった記憶が、あの日を境に目を覚まそうとしているみたいに、少しずつ暴れ出すのを感じていた。
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