絶対に好きじゃナイ!
確かにわたしにとって、"西城虎鉄"というのは特別な存在だと思う。
それは認めよう。
だけどそれって、好きとか恋愛感情とか全然そういうことじゃない。
社長はたまたま近くに住んでいて、いつも楽しそうできらきらして見えて、わたしのことをよく可愛がってくれた近所のお兄さん。
それが突然わたしにキスなんてするから、ちょっと混乱してるだけだもん。
だいたい、わたしとの間に恋愛感情はありえないって最初にはっきりさせたのは社長のほうなんだから。
あれは確か、社長が高校3年生になって大学の進学先も決まった頃。
社長も要さんも地元を離れると知って、わたしは少し寂しかった。
「虎鉄、もういなくなるんでしょ?」
「お、なんだ梨子嬢。寂しいのか?」
「ばっかじゃないの! 寂しくなんてないし! だいたい、その変な呼び方やめてよね」
「ははは、梨子ちゃんも反抗期だなあ」
相変わらず社長と要さんは一緒にいることが多くて、そしてふたりはランドセルを担いだわたしを見つけては"学校はどうだった"とか、"ちゃんと飯食ってるか"とか、そんなことを聞いてきた。