絶対に好きじゃナイ!

まわりの女の子たちは、クラスのどの男の子がかっこいいとか、もうすぐ進学することになる中学の先輩のこととか、そんな話をして盛り上がることも増えていたり。

もうはつ恋をしている女の子も多かったけど、わたしが見てたのはただひとりだけだった。

だって、その人がわたしの知る限り、いちばんかっこよくて優しくて強い男の人だったんだもん。



「心配すんな、たまには帰って来てやるし。なんかあったら連絡しろ」

そう言ってわたしの頭をなでた社長に、きっとわけもわからずドキドキした。

「俺にとって、お前は特別だよ」


このときのことを思い出すと、今でも何故か息が苦しくなるの。


「お前は妹みたいなもんだと思ってるからな。遠慮しないでいくらでも甘えろ」



"好き"だなんて気持ちは、まだ知らなかったと思う。

だけどわたしの中に静かに芽生えた小さな蕾は、そのまま凍りついて今も心の奥底を冷やし続ける。


あの人のことは、絶対に好きになっちゃいけないんだって。
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