絶対に好きじゃナイ!
「soirの新店舗に関する資料だ。あそこの社長が明日の夕方なら時間がとれると連絡を寄越した。お前ひとりだけど、安達医院の後に行って来れるな?」
「わ、わたしひとりでいいんですか……?」
この資料は、もう既に設計図も仕様書も全て揃ったもの。
だからこれをお渡しして、ちゃんと説明ができれば大丈夫なんだけど……
なにしろ、このsoir(ソワール)という会社。
老舗の有名シューズメーカーから最近独立したブランドで、若い女性が少し背伸びをして履くオシャレなヒールが大人気。
かく言うわたしも、なけなしのお給料で奮発して買ったsoirの黒いヒールは大のお気に入り。
そんな独立したばかりのsoirが、更なる市場拡大を狙う新店舗の設立。
オシャレなsoirに見合うデザインにするために、社長や結木さんや松丸くんたちが一生懸命がんばってたのを知ってるから。
「き、緊張しますね……」
「不安か?」
頭の上から降ってくる声に、顔を上げてみる。
薄茶色の瞳がまっすぐにわたしを見ていて、どこかふわふわしていた気持ちが一気に引き締まるのを感じた。