絶対に好きじゃナイ!
「梨子、行くぞ」
「あ、はい!」
ずんずん玄関へ進んでいく社長のあとを慌てて追いかける。
紫枝さんがキッチンで、「ちゃんと帰って来てね〜」なんて笑いながら声を上げた。
「うわー、やっぱり夜は外、冷えますね」
「バカ、上着くらい持ってこいよ」
「だ、だって社長がどんどんひとりで行っちゃうから……」
わたしが口の中でもごもごと言い訳をすると、さらりと自分の上着を脱いで肩にかけてくれる。
ほらね、この人。
人に優しくするときはいつもしかめっ面なんだから。
「お前、こっち歩け」
そう言って腕を引かれて、社長と歩く場所がくるりと入れ替わる。
白線で区切られただけの狭い歩道。
社長は少しだけ車道にはみ出しながら歩いていた。
社長と場所を入れ替わってすぐに、暗い夜道を切り裂いて一台の車が通り過ぎて行く。
こういうことされる度に、社長ってモテるんだろうなあって思わされちゃう。
自分がされるのは、正直嬉しいんだけど少し困る。
今わたしにこうしてるのは、"社長"なのか、それとも"虎鉄"なのか……