絶対に好きじゃナイ!
要さんがそう言うと、社長は珍しくあたふたして慌てていたっけ。
「バカ、これは驚いて固まってただけだ! 断じて揺らいでねえからな!」
「はいはい、今はそういうことにしといてやるよ」
そして要さんがわたしの前にしゃがみ込んで、視線を合わせる。
眼鏡の奥の切れ長の瞳が、わたしと同じ目線に降りてくることはあまりなかったから。
だから余計に、こうして視線を合わせるとどうしても要さんに反抗することはできなかったんだよね。
「梨子ちゃん、ごめんね。俺たち、夜遅くまで遊ぶと思うし。先生はよくても、お父さんとお母さんに心配かけちゃダメだろ? だから、梨子ちゃんがもう少し大きくなったら一緒に行こう」
「……りこ、大きくなったらこてつと一緒に夏祭り行ける?」
「だってよ、虎鉄」
「あ、当たり前だろ! 夏祭りでもなんでも連れてってやるよ」
だから、はやく大きくなって追いついてこいよ。
それまで、待ってるからーー
あれ、これは本当に社長が言った台詞だったっけ?
それともわたしの記憶違いかな。
夢の中の社長が勝手に言っただけかも。
だけどとにかく、高校を卒業して地元を離れた社長と夏祭りに行けたことは、一度もなかった。