絶対に好きじゃナイ!
『ちょっと待って、落ち着いて。電車が遅れてるのね?』
いつもと変わらない紫枝さんの声を耳元で聞いて、少しだけ鼓動の音が遠くなる。
そうだ、落ち着いて……
慌てても電車は来ないんだから。
「は、はい。40分遅れなんです。だから、soirの社長との約束の時間に間に合いそうになくて……」
『わかったわ。ちょっと待ってね、社長が代わるって』
電話の向こうで少し話し声が聞こえて、すぐに耳元で社長の声がした。
『椎名? 大丈夫か?』
その声を聞いただけで堪えた涙がぶわっと溢れそうになって、慌てて唇を噛んだ。
社長には見えないのに、黙ったまま一生懸命に頷いた。
『悪い、俺も一緒に行けばよかったな』
今度は首を横に振る。
そんなことない。
電車が遅れたのは、社長のせいでもなんでもない。
誰が来ても同じだったはず。
だけどせっかく任せてもらった仕事なのに、こんなの、悔しい……