絶対に好きじゃナイ!
どれくらいそうしていただろう。
駅の前でしばらくぼーっと立っていた。
さっきの雨はただの通り雨だったみたいで、今はもう雨も止んだ。
わたしの心も少し落ち着いたけど、沈んだ気持ちはなかなか浮き上がらない。
雨の匂いを残した街を、少しずつ夜がのみ込んで行く。
俯いた先に見える、雨に濡れてきらきらと光る銀色の歩道。
そこにふと、綺麗に磨かれた黒い革靴が映り込んだ。
そろそろと顔を上げると、薄茶色の社長の瞳が優しくわたしを見下ろしていた。
社長、迎えに来てくれたの?
もう荷物も持って、これから帰るのかな?
何も言わない社長を、じっと見つめる。
社長はスーツの上着を脱いで、雨に濡れて肌に張り付くブラウスを隠すようにわたしを包み込んだ。
そして黙ったまま、わたしの頭を少し乱暴にぐしゃぐしゃとなでた。
ああ、懐かしいなあ。
小学生のわたしは、よくこうして虎鉄に頭をなでられた。
落ち込んだせいでなんだか素直になっているみたいで、今は社長の手がすごくすごく嬉しかった。