ショコラノアール~運命の恋~
階下でどんな事が起きているか、知らないし、知りたくもない。



時折聞こえるお姉ちゃんのはしゃぐ様な笑い声が、私の気持ちを逆撫でる。


ベットの端に立掛けたスケッチブックを、取り上げ開くと、

パラパラとめくる。


「あれからなんにもしてないや」


最後のページに書いた、ケーキのレシピ設計図。

学生のころからこうやってイラストで作り方を構築していく。


ヨーグルトベースのムースに

ブルーキュラソーのペーストで波模様。

桃を船にして、チョコレートで帆を作った。

コンクールは初夏だから、

全体にブルーを印象的に考えて涼しさを演出した。


これを作って見せたけど、

店長は何も言ってくれなかった。


見た目は良くても味がすっきり決まらなくて、

アドバイス欲しかったんだけど……

ラストの1個は……

ふふふっ


クリームでべとべとになったあの人の顔を思い出した。


「大の大人の男が泣くとか、初めて見たな。」

でも、

不思議と深いな気持ちじゃなかった。


なんだかいじらしいっていうか、かわいいと思ってしまった。

普通なら退くとこだけど、なんでだろ。


「宮 直樹くん」




せっかく偶然会えたのに……


さっき、あんな別れ方しちゃって、

どんな風に思われただろう。



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