ショコラノアール~運命の恋~
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「ちょっと、なんでよ!」


バスが走り出してなお、

掴んだまま放されない手首を振り外した。


「なんでって、このバス最終だろ?逃したらまずいじゃん?」


「そ、それはそうだけど」


「なっ?」


なんてしたり顔の陽君に危うくまるめ込まれそうになって、

はっとした。


「っ違うよ!それじゃなくて、どうして、あんな言い方したのかってことよ!」


「どうしてって、そりゃ……

お前ってにぶい女だな」


「はあ?意味わかんない。」


なんでも判ってるような顔して、

むかつく。


私のにらんだ顔がおかしいのか、


くくくっと笑う。


「何よ!」


ムキになった私の耳元で、


『みんな見てるよ。場所わきまえなきゃ

 座ろうぜ』と囁いた。

バスに乗車してすぐ、いい合いを始めた私たちを、

よく一緒になる顔見知りの通勤帰りの人たちが、

興味津津の目で見ていた。


私はしぶしぶと陽君の後ろの席に座り込んだけど、気持ちは晴れるはずもなかった。


そして今更ながらバスの後方の窓に視線を向けた。


発車してから随分経っていた訳で、

そこになおくんの姿は見つけられるはずもなかったけど。

「なおくん……」




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