ショコラノアール~運命の恋~
バスを降りると、私たちはずっと無言で歩いた。


陽君は髪の毛を抜かれたことがかなりショックだったみたいだ。

ちょっとかわいそうだったけど、

私となおくんの胸の痛みに比べたら、

大したことないんだから。


バックから鍵を出して、鍵穴に差し込み回す。


横開きの玄関に手を掛けると、

その手に陽君が手を重ねてきた。


「何するの?」


あわてて、パンっと音を立てて手を払うと、

困ったような顔をして振りはらわれた手をもう一方の手で押さえた。


「なあ、

いい加減に素直になってくれよ。


判ってんだろ?


お前は昔みたいに俺と一緒にいたらいいんだよ!」



「陽君は、何でそんなこというの?」


「だからさっ」


「素直になれ?って、意味分かんない。

 昔みたいって何?


 陽君が見てるのは昔のうじうじした私なんでしょ?


 今の私じゃないよ。


 あの頃の私は陽君に逆らったりしなかったでしょ?


 刃向ったり、ましてや髪の毛引き抜いたりしないでしょ?

 
 大体ずっと私のことなんて忘れてたんじゃないの?


 たまたま、あのカフェで会って、たまたま昔のこと思いだして、

 あの頃の私にかまってた頃の気持ち思い出しちゃっただけなんじゃないの?


 私は生きてんのよ、

ちゃんと陽君のいない場所でそれなりに考え悩み生きてきたの。

 陽君なしでね!」

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