ショコラノアール~運命の恋~

家でも焼き立てのパンが食べられると言う冷食がスーパーで売られるようになって、

そのシステムをここのパン屋でも取り入れた。


パンを1次発酵して成型した状態で急速冷凍して、

真空状態で、家で解凍して最後の焼き上げをする。


パン屋と同様の焼き立てが食べられると言う事は、

目新しいのか好評だった。


定期便で契約している家に配達する。


他のパン屋よりも店頭に並ぶ以外に売り上げを保つことのできるシステムは

人手の少ないこの店にはうってつけだった。


設備投資はかなりしたようだったが、

生き残りをかけてがんばっているのだ。



「またお願いします」


冷凍ボックスが閉まっているか確認し、


次の家に配達する。


その繰り返し。


前の仕事よりも小さいけれど、

こうやって配達する仕事は、何となくしっくりくる。


でも、

運送会社にってわけにもなあ。



将来何になってどうしたいのか悩むなんて遅い気もするけど、

ちゃんと考えたいと、今更ながら思うんだ。



ブロロロッ


あ……!


視線をそらしてしまうのは彼女の働くケーキ屋。



そらしても避けても入ってしまうのは、


まだ、彼女をあきらめきれないからだなんてことは

判り切ってる。



あんなにきっぱり別れを告げられたのに、

未練たらしいよな。


振った奴に思い続けられるとか迷惑この上ないよな。







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