ふわり、さらり
「え、何ヶ月?」
「妊娠はしてないですけど。ていうか結婚の予定すらないですけど。いつか産みます。…それで目一杯可愛がります。うんと」
彼の目に、涙が滲むのがわかった。
私はいつかの彼の言葉を思い出していた、彼と二人で休日を過ごしていた時の。
”俺川澄の子供ならよかった”
恵まれなかった家庭で彼が抱えていた孤独。
だから彼は友人や恋人でも埋められない、揺るぎない存在を求めていたのだ、家族を。
幼かった私はその孤独にずるく入り込んで、でも瀬川さんを抱えきれずに結局離れた。
「···ありがとう」
「あの時言ったじゃないですか。生まれ変わったら息子にしてあげるって。私たくさん産みますから、兄弟の一人にくらいいれてあげてもいいですよ?」
私の軽口にも返答できない彼は涙で喉がしまっているようで、でも掠れ声で”すくわれる”と言った。
私が私の子供を可愛がることで本当にこの人が救われるのか、それは分からない。
でも少しは孤独が軽くなればいい。
過去の辛い恋愛が、こんなふうに形を変えたっていい。