ふわり、さらり
「さよなら」
会計を済ませて店の前。
もう、会うことはないだろう。
歩きだそうと背を向けようとしたら、腕を引かれた。
「─瀬川、さん」
手は、冷たい。
「・・なんて言えば良いのかわからないんだけど」
人を引き止めておいて、そんなことを言う。
また上を向いて、
考えているのか
言いあぐねているのか
わからない彼を待っていて思いついた。
腕を掴む手をそっと外し、手の平で掴む。
「握手。」
微かに赤くなった目で笑う彼と、手を掴む私。
彼のこの冷たい手に、温かい手を重ねてくれる誰かが現れますように
しばらく握手して、彼から手を離した。
「ありがとう、お幸せに」
ありがとう
彼の笑顔が穏やかなものであったから、私も笑い返した。
「ありがとう、瀬川さんも」
二年、彼と出会ってからは五年。
長い長い私の片想いに区切りがついた。