イケメン様の隠し事

転校生と文化祭



どう聞き取ったらヤキモチになるんだよ、アホかこいつ…。

「ねー淳ちゃん」

「あ?」

「淳ちゃんは、僕が女の子と喋ってたら、嫉妬してくれる?妬いてくれる?」


「わからん。」


そう言った瞬間少し悲しげな表情を浮かべる涼太。
さっきまでのおふざけ顔はどこいったんだよ………


あーくそ。
こういうこと、あんま言いたくないけど………

「わからんが、たぶん、妬くんじゃないかな…」


自分でも顔が赤くなっているのがわかるくらい熱かった。

涼太の顔が見れないので俺は俯いた。

しばらくの沈黙。

え、何この沈黙。


「な、何か喋れよ……」


「淳ちゃん可愛いです」


「あっそ………」


「こっち向いて欲しいです」


向けって言われたって…
恥ずいし、向いたらキスされそうだし……
それって俺が自意識過剰なだけ?


少し戸惑いながら顔を上げる。


すごく優しい顔をして笑う涼太。
その笑顔を愛おしいと思ってしまう俺はたぶん病気だな。


「な……何笑ってるわけ……」

「どこにチューしようか迷ってたの」

「……………お前1回屋上から飛び降りればいいのに。」

「照れないで」


そう言い、涼太の顔が俺の顔に近づいてきて、僅かあと3センチというところで授業終わりのチャイムがなった。


「き、教室戻るぞ」


俺はふぃっとそっぽを向き口を手の甲で抑えながら言った。


「淳ちゃん可愛すぎるよ。その顔ほかの男の前でやったら怒るからね?」


「勝手に怒ればか」

涼太はふふっと笑い俺の横に来る。


今までそこら辺のカップルを、一生一緒にいようねとか、愛してるとか、たかが高校生で何言ってんだこいつらって思って見てた。


でも……
そういう思いが出てきてしまうのが、今涼太の隣にいてすごく分かる気がする。


「涼太……離れんなよ…」


俺は物凄く小さな、涼太に聞こえないんじゃないかなっていう声で言った。

…………つもりだったんだけど、涼太には余裕で聞こえてたらしく


「もうちょっと大きな声で言わないと聞こえないなぁ」


なんて、悪戯な笑を浮べ言われてしまった。


「誰が言うかクソ。ハゲ。」






─帰り─


「淳ー、今日バイトかー?」


「おう。」


「じゃぁ一緒行こうぜ!」


「しかたねぇな。行ってやるよ。」


「相変わらず上から目線だな………」


「お前より上だから当たり前。…あ、涼太ー。」


「ん?何、淳ちゃん!」


「優のこと家まで送ってやってくれねーか?」


「ちょっと淳、あたしは大丈夫よ?それに、今日は加代子と遊ぶ約束してるのよ」


加代子?
誰だそれ…………

あー。
西崎さんか!
って、いつのまに仲良くなったんだ…

「そうか、気を付けろよ?あんまり遅くならないようにな?」


「貴也はそんなこと言ってくれないのに、淳はさすがね」


優は悪戯な笑で貴也を見ながらそう言った。


「俺だって言おうと思ってたし!!」


「はいはい。強がらなくていいからねー。」


ぶはっ
優がちょー棒読みだ。


俺はつい腹を抱えて笑ってしまった。

ふと涼太を見ると、涼太の目は西崎さんに向けられていた。


こいつ、西崎さんのこと気になんのかな……
ま、いいか。


「じゃぁな、涼太、優。それと、西崎さん」


「はいっ!バイト頑張ってください!!」


「ん、ありがと」


王子スマイルは効かないから自然の笑で別れを告げる。


「行くぞ貴也ー」


「おう!」



俺らは学校からそのままバイト先へ向う。


「淳、お前変わったよな…」


唐突にそう言われ俺は少しビックリする。


「え、いきなり何だよ…」


「俺さ、まだ俺が片想い中だった頃思ったんだ。こいつが普通に恋できなかったらどうしよう、とか、そしたら俺が隣にいてやればいいか、とか。」


真剣な顔で言われるから俺はいつもみたいにキモいとかは言わないで、ただ黙って聞いていた。


「でも、涼太と淳が付き合うって言った時、内心ホッとしてた。あの淳が男を好きになって、素直に安心した。」


「お前…俺のこと心配しすぎなんだよ。もっと自分のこと考えろよ。優と幸せになることだけ頭で描いてろよ。お前が心配するほど俺は子供じゃない。」


「そうか…」


「でも………嬉しかった。ありがと。」


「俺は1人だとクソみたいだけど、淳と2人なら最強で最高のコンビでいられる」


ニシシっと笑っていう貴也。
何だこれ。
すごく暖かい。

友達………


「あぁ。そうだな」

俺も笑って返す。






バイトが終わり家へ帰ると、いつもは寝ている母さんが起きていた。

「ただいま」

「あら、おかえりなさい!」

「母さん、寝なくていいの?」

「うん、淳にお願いがあって…」


にっこりと笑って俺の顔を見る母さん。

あぁ、この顔は何かあるな。
変なこと言うのだけはやめてくれよな………

そう願いながら、俺は、何?と聞き返す。


「ふふん♪ あのね、涼太君をここに連れてきてくれないかなーって思ってね」


「え?」


な、何?
何て?
え、俺の耳おかしくなったのかな…?


「ごめん、もう一回言ってくれる?」

「だーかーら!涼太君を家に呼びなさいって言ってるの!」

「……………はぁ!?」


どうやら聞き間違えではないようです。


「ななな、何で!?」

「んー、見てみたいから?あたしめんくいだし?」

「う…………嘘だろ……」

「なぁによ。母さんには見せられないってわけ?」

「別に、そう言うんじゃないけどさ………」

「じゃ、いいわよね?ってことでよろしくね!おやすみぃ〜」


…………………ははははは。
鬼森淳、高校2年生にして始めてのことが多すぎて困っております。


まぁ、いずれは会うことになるだろうし、いいか。
とりあえず落ち着いてから呼ぶことにしよう。









─母さんに涼太を家に呼べと言われてから約2ヶ月。
秋がやってきた。


そして今はHRの時間。
文化祭の実行委員を決めている。
実行委員は男女2人でやるらしい。


「えー、じゃぁ、やりたい人いるかー?」


俺暇だしなー。
やろっかなー。

そう思い手を挙げた。


「おぉ鬼森、やってくれるか!!」


先生がそう言った瞬間、女子達が一斉に手を挙げ始める。

うわー。
こうなること考えてなかったわ………


「んー、じゃぁ、クジで決めるぞ!!当たった奴が鬼森と実行委員な!!恨みっこなし!」


おぉ、たまにはいい案出すじゃん担任。

周りからはクジが外れた女子の声しか聞こえてこない。
これ当たり入ってんのかよっていうぐらい次々とハズレを引く。


先生も皆がハズレを引いているから当たりが入っているか不安になってきたんだろう。


「えっとぉ…当たった奴…いるか?」


先生がそう聞くと、俺の横から細い綺麗な声が聞こえてくる。

「先生。私、当たりました…」


この声は…優じゃなくて、西崎さんだ。
優はというと……俺の右隣ですぅすぅ寝ております。


「じゃぁ西崎に決定だな!明日から特別教室2で話し合いがあるようだから、頼んだぞ!」


「「はい」」


俺と西崎さんが絡むの結構多いな。
優は校内一美人と言われているから俺とか貴也と仲良くしていても、女子の嫉妬の目はなかった。

でも………
西崎さんには何故か少し、嫉妬の目を向けられていた。
多分それは、西崎さんが俺のことが好きだって見え見えの表情をしているからかもしれない。


って、おい。
女子こえーよ。
ま、何かあったら助けるけどね。


「西崎さん、よろしくね?」

「あ、はい!よろしくお願いしますっ」

「ふっ……同い年なんだから、敬語なんて使わないで、ね?」

「わ、わかりまし………わかった」


可愛いなー。
俺美人に挟まれてるわー。

そう思っていると、優に後ろから丸めた紙でパコッと叩かれた。


「なぁに加代子ナンパしてんのよバカ淳。」 

「いってーなぁ。ってか優、お前俺が女の子と喋ってんの見て妬いてんのー?貴也というものがありながらー?」

と、俺とは思えないぐらいバカな事を言うと、またパコッと叩かれた。

「殺すわよ?」

「はい、すいません。」

「あっ貴也と涼太来た!」


優はそう言い貴也と涼太の元へ走っていった。


まさか優にバカ呼ばわりされるとはな……


「あ、あの……鬼森くん…」

「ん?どしたの?」


下の方から可愛らしい声。
だから俺は優しく笑顔で聞いてあげる。


「ちょっとお話いいですか………?」

「うん、いいよ?」


一旦会話を終え、あまり人気のない渡り廊下へ向う。


「で、何かな?」

「え、えっと……もし良ければ、私と一緒に、文化祭まわりませんか??」

「え………っと」


え、これは……どうなんだ?
たぶん涼太も一緒に回ろうとか言ってくるよな…
俺も涼太とまわりたいし…


「あーっとね……ごめん、俺友達の先約があるんだ…」


すまん、西崎さん!!
許しておくれ!!


「うん、分かった!聞いてくれてありがとう」


でも、少し元気に反応してくれたのはホッとした。


俺らは教室へ帰る。
すると、たちまち周りの女子達が西崎さんを囲ってトイレへと連れて行ってしまった。


「ちょ、淳!加代子大丈夫かしら?」

すごく心配そうに言う優。
ヤバイかもな………

「俺ちょっと見てくるわ!」

「淳ちゃん、僕も行くよ」

すごく冷静な声で涼太が言い、俺についてきた。


女子トイレの前。
耳を澄ませてみる。


『ねぇ、西崎さん?』

「は、はい?」

『さっき淳と何喋ってたのー?』

「え、えっと……文化祭を一緒にまわってもらないかって…」

『あのさぁ、何独占しようとしてんの?抜け駆け?』

「そ、そんな、抜け駆けだなんて……」

『っていうかさぁ、もう西崎さんが転校してきて2ヶ月だよね?淳だっていつまでも転校生扱いしてちやほやするなんてありえないかんね?』

『淳は皆の淳なの。ちょっと周りより可愛いからって調子のりすぎたよねー?』

「あ……あの………ごめ、なさ…」

『はぁ?聞こえないんですけどー』


「淳ちゃん、止めよ」

「あぁ、行こう。」


俺と涼太は女子トイレへ入り、俺が壁を思いっきり蹴ると、ガン!という音が女子トイレの中に響く。


「ねぇ、何やってんの……」

『じ、淳!それと、涼太君!?』

『何やってんのって、別に、皆で喋ってただけだよ』

「は?じゃぁ何で西崎さん泣いてるわけ?ねぇ、何で?」

『そ、それは………!』

『っていうか淳、ここ女子トイレだよ!?』

「んなの知るかよ。っつか、俺の質問無視?」


俺が女子と喋っている間、涼太は西崎さんを俺らのところまで連れ戻してきてくれた。


「で、何でなの?」

いつもの王子スマイルはない。
涼太も顔がめちゃくちゃ怒ってる。


『ちょっと淳も涼太君もおかしくない?あたしらは皆淳と文化祭まわりたいって気持ち抑えてたのに、この子抜け駆けしようとしたんだよ!?』


「だから、何?別に誰とまわろうが決めるの俺だし、っつか西崎さん何も悪いことしてないよね?だいたいさ、俺とまわりたいなら俺に言えばいいじゃん。しかも俺西崎さんとまわること、断ったし。」


「とりあえずさ、君たち、西崎さんに謝ったら?」


涼太が口を開く。
物凄く低い声が聞こえた。
かなり怒ってる。


涼太がそう言った後、女子は次々と謝り、少し涙目になりながら教室へ戻って行った。

すると、西崎さんは力が抜けたようにその場にへなっと座り込んでしまった。


「西崎さん大丈夫!?」

「鬼森君………涼太君…あ、ありがとうございました……こ、怖かったです………」

また西崎さんは涙をこぼす。

「ごめんね、俺のせいで………」

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