笑わないオトコ【短】
「主任、痛いですってば!!」

思いきり、手首を掴み歩く徹に結衣は、ちょっとだけ声を張り上げた。

「あ、すまない……」
「もう…。どうしたんですか」

素直に謝る徹に、結衣は少し戸惑った。

「どうしたって…。お前だって、どうしたんだ」
「はい…?なにが、ですか」
「なにが、って…。あんなオトコに警戒もせず、アドレスを教えようとしてただろ」
「しょうがないじゃないですか。意中の人は、わたしなんかに興味ないみたいですし?」

結衣の言葉に、徹は何も返せずにいた。

意中の人が、自分だと分かったからだ。

「わたしだって、3ヶ月頑張りました。それでも脈ゼロですもん。それより、今日なんてみんなの前で、あんな怒り方されて、もう完全ないなって思い知らされましたから」
「……」
「理由、聞けて満足しましたか?じゃぁ、わたし帰りますので。お疲れ様でした」

結衣が徹の前を、横切った。

これで、いいのか…?

彼女はずっと自分に、好意を寄せてくれていた。

それなのに、これでいいのか…?

真也に取られるかもしれないんだぞ。

徹の心に、色んな感情が溢れ出す。

だけど、答えが出る前に体が勝手に動いていた。
< 9 / 12 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop