あの夏のキミへ
するとようやく諦めたようで、田川がなにも言わず開け放たれたドアの前に立つわたしの正面にゆっくりと歩いてきた。

「西田……お前…、水野と仲いいのか…?」

「………まぁ…。」

驚くほどに声が震えていた。

身長が高い田川は、中腰になりわたしに目線を合わせる。

大きな手でわたしの肩をがっちり掴む。

その時の田川の瞳からは、もう迷いの色は消えていた。

「落ち着いて聞けよ…?」

そんなこと言われると、逃げ出したくなってしまう。

田川がゴクリと唾を飲み込んだ。

「……水野は…………ガンなんだよ…」
< 102 / 135 >

この作品をシェア

pagetop